レジリエンス – 小さな軌跡 –

Matoiの小説

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「助かるよ」

かすかに声が聞こえた

目が覚めると病院のベッドの上にいた。

頭には包帯が巻かれていて、身体がひどく痛い。

どうしてここにいるのかわからないほどに記憶が曖昧になっている。

看護師がやってきて、私に声を掛けてくれた。

「よかった。目が覚めたんだね。」

彼女は優しい笑みで私に声を掛けてくれた。

それから彼女は続けて言った。

「君は運が良いね」

「2週間は寝ていたんだよ」

看護師はそういって私の顔を見た

少しずつ思い出してきた

北陸にある山に私は登った。

その日は雲もなく月明かりで周りが良く見えていたから予定よりも早く目的地に着くはずだったけれど雪が積もっていたこともあり、足場が悪く私は滑って落ちてしまった。

目が覚めると広い場所にいた。少し歩いたところで神秘的な場所を見つけた。

中心には雪の丘があり、その周りにはコバルトブルーの雪解け水が溜まっている。

私は雪の丘の上で倒れてしまった。

満天の星が目の前に広がっている。

神秘的な光景を最後に見ることができたのだと思い、笑った。

最近は安らぐ暇もなく、心落ち着くこともなかった

朝が来ると絶望的になり、

夜が来ることに闇を感じている日々をもう何年過ごしてきただろうか。

恐怖で眠れなかった日

人と接することが下手な私はどうにかして性格を変えようと沢山の知識と経験をしてきたけれど、それもうまくいかないことの方が多い。

それでも、私はやってきた。

ネガティブに捉えがちな性格だけれど、それを他人には見せないようにしてきた。

幻想的な雪の丘の上で私は一人ここにいる。

目を閉じて眠ってしまった。

・・・・・。

看護師は、近くにいた一人の女性が助けてくれたと言った。

それから、女性は私の手術が終わるまで病院にいたと教えてくれた。

2週間も寝ていたせいか体がうまく動かない。

窓のカーテンが揺れ

気持ちいい風が外から入ってきた。

4月の風はまだ冷たい。それでも晴れている日はとても心地の良いものだ。

公園で遊ぶ子供の声、空を飛ぶ飛行機の音

世界は音に包まれていると誰かが言っていた

それから私はまた眠りについた。

目が覚めたのは夜だった。

月明かりがとても綺麗で次の日も晴れだろうと思わせるほどに星が輝いている。

体がうまく動かないもどかしさから周りに手を伸ばしていたら

枕元からクシャっと音がした。

紙が置いてあった。

中を見てみると

「目が覚めますように。」

そう書かれていた。

助けてくれた女性が書いたものだろう。

もし、病室にくることがあればお礼を言わないと。

朝になると看護師が病室に入ってきた。

私は手紙を看護師に見せて彼女のことを知っているのか、何か聞いていないか尋ねてみた。

看護師は私に

「観光で来ていたと言っていたから、この辺の人ではないらしいよ」

と言った。

「名前は聞いていますか?」

私は少しでも彼女の情報が知りたくて聞いた。

「聞いていないけれど、変なことを言っていたよ」

帰る前に看護師から彼女に声をかけたときに最後

「彼と私は同じ」

と言っていたと看護師は語ってくれた。

その言葉に私は動揺した。

彼女は私を知っているのか?

私は過去を思い出していた。

同じことを思った女性が確かに一人いた。

それは、15年前の高校で出会った女の子だった。

そんな偶然が起こるはずがない。

でも彼女なら私のことがわかるだろう。

病院を退院した後に、山に上り雪の丘に立った。

周りには雪解け水がコバルトブルーに透き通っている。

私は未来に生きることを諦めていた。

思い出なら過去に戻れる。

触れられなくても声が聞こえる。

過去の私との約束を果たそう。